1枚の銅板を金鎚で打ち、形を起こして作り上げる鎚起銅器。鎚起銅器職人の大橋保隆さんは、⾃身の手掛ける器を通して200年以上続く伝統と技術を今に伝えています。今回、キューブデザイン初の試みとして、ランプシェードの製作を依頼しました。職人としての手技と作家としての表現について、大橋さんが製作を経て辿り着いた思いを伺いました。





 3.5mほどの高さから吊るされたランプシェード。ダイニングテーブルを包みこむように設置されたシェードは、鎚起銅器職人 大橋保隆さんの手によって1枚の銅板から作られたもの。直線で構成される建築の中、宙に浮かぶような有機的なフォルムが印象的で、直線と曲線の対比が空間全体のアクセントになっているのがよく分かる。「今までは手の中に収まるサイズのものを作ることが中心でした。それが自身の考える職人としてのものづくりだと思っていましたから。だから、話を頂いた時は手掛けたことのない大きさだけどできるかな?と、難しさと同時に面白さも感じました」。

 大橋さんのこれまでの仕事ぶりや鎚起銅器をよく知る人から見ると、このランプシェードはかなり大胆かもしれない。例えば、襞のようになっている部分。布や紙のような柔らかな印象でありながら、近くで見るとしっかりと厚みもある。鎚起銅器の製作過程で表れるこの襞の部分は、本来であればフラットに仕上げて直線を出す箇所だという。「工房に来たキューブデザインの佐藤専務が、製作途中の銅板を見て“これは興味深いですね”と。今までなら、職人としてこういう部分は消すものだと思っていました。表現の一つとして面白がってくれて、一緒にアイデアを擦り合わせていける人がいたことは一番の発見でしたね」。





 ランプシェードの位置は、さまざまな高さや角度から何度も何度も考察した。椅子に座るとちょうど目線の位置になるが、不思議と圧迫感もない。ひらひらとした独特の形が軽やかさを演出しているのだろう。「照明が目線の少し上にあるって斬新ですよね。空間に馴染むといいなと思っていましたが、無事に溶け込んでいてほっとしています」。ランプシェードを眺める大橋さんは、どこか嬉しそうに安堵の表情を浮かべた。「美術や工芸はどれも建築の中から派生してきたものだと私は思っていて、その中で必要とされるものを鎚起銅器の職人として作ってきたわけです。それゆえ古典的なやり方を大切にしてきた部分もあります。けれど、今回の製作で、今まで培った鎚起の技術や経験は、生活道具だけでなく暮らしそのものに通じる新たなものづくりに生かせる、そんな手応えも感じました」。

 暮らしの道具から空間の一部へと、製作の幅をさらに広げた大橋さん。これまで重んじていた従来の手法だけにこだわるのではなく、自分の中のこだわりを少しずつなくしていくことで、自身の作家性や新しい表現の可能性を見つけ出したという。「次はね、火鉢とかもっと大きなものを作ってみたくて」。そう話す大橋さんの目は職人であり、夢を思い描く少年のようにも見えた。

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